なぜ、昔買った時計に「違和感」を感じるのか?――初期のコレクションが迷走する「心のメカニズム」

時計ボックスの奥に、最近まったく出番のない時計はありませんか?
「買った時は、あんなに欲しかったのに」 「今の自分が見ると、なぜこれを選んだのか分からない」
もしそう感じる時計があるなら、それは決してあなたのセンスが悪かったわけではありません。 それは、あなたが時計愛好家としての魂(主観的宇宙)が変化した証拠なのです。
時計選択学の最新理論に基づき、なぜ初心者の時計選びはブレるのか、その「心のメカニズム」を解き明かします。
あなたの中に「コア」はなかった時代
時計趣味を始めたばかりの頃(Phase 1〜2)、私たちは皆、熱病に浮かされたように時計を買い漁ります。 ダイバーズを買った翌月にドレスウォッチが欲しくなり、その次はヴィンテージに惹かれる……。気付けば、最初のダイバーズの色違いに手を出す始末。
なぜ、これほどまでに焦点が定まらないのでしょうか? その答えはシンプルで、かつ少し衝撃的です。
当時のあなたの中に、「自分は何者か」という確固たる核(コア)が存在しなかったからです。
「自分」という小宇宙の質量がまだ小さく、中心となる重力が生まれていない状態。 いわば、心が空っぽの無重力空間です。 核がないため、私たちは不安になります。そこで、その空白を埋めるためにある行動に出ます。
社会から「仮面」を借りてくる
私たちは無意識のうちに、社会に流通している「既製品のキャラクター(アーキタイプ)」を借りてきて、自分の顔に貼り付けようとします 。
- 「タフで男らしい人に見られたい」 → 映画のヒーローのような「英雄の仮面」を借りる。 → その仮面に合う「ヒーローのような時計」を買う。
- 「知的で成功した人に見られたい」 → ドラマの敏腕経営者のような「賢者の仮面」を借りる。 → その仮面に合う「繊細な時計」を買う。
お分かりでしょうか。 この時、あなたが選んでいたのは「自分の魂に響く時計」ではなく、「その時被っていた仮面(コスプレ)に似合う小道具」だったのです。
人格の「モザイク状態」
問題は、これらの仮面があなた自身の内面から湧き出たものではなく、外から借りてきた「別々の要素」だということです。
- 月曜日は「英雄の仮面(プロフェッショナル時計)」
- 水曜日は「賢者の仮面(ドレス時計)」
これらはあなたの中で溶け合っておらず、ツギハギの「モザイク状」に張り付いています 。 バラバラの仮面を日替わりで被っているのですから、選ぶ時計に一貫性がない(ブレる)のは当然です。
そして、ある日ふと我に返り、仮面を外した時、手元に残った時計を見て思うのです。 「あれ? これは誰の時計だ?」 と。
これが、過去の時計に感じる「違和感」の正体であり、初期のコレクションに統一感がない理由です。
「迷走」は必要なプロセスである
しかし、過去の自分を責める必要はありません。 この「仮面を次々と付け替える実験(Phase 2:拡大期)」こそが、自分には何が合い、何が合わないのかを知るための唯一の方法だからです。
様々な仮面を被り、多くの時計と出会うことで、あなたの心には「経験」という質量が蓄積されていきます。 そして、その質量がある臨界点を超えた時、心の中に強烈な「重力」が発生します。
この重力が、バラバラだったモザイク(仮面)を粉砕し、中心に引き寄せ、一つに溶かし合わせる時が来ます。
では、バラバラだった人格が一つに溶け合った時、私たちの時計選びはどう変わるのでしょうか? そして、目指すべき「迷いのない状態」とは?
次回、その答えとなる「人格の融合」と「18Kの黄金比」についてお話しします。


